第15回 JIA中国建築大賞2023

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アニュアルレポート

(公社)JIA 中国建築大賞実行委員 佐渡 基宏 (岡山)

JIA中国支部では、JIAの建築家憲章の理念 『建築家は自らの業務を通じて先人が築いてきた社会的・文化的な資産を継承・発展させ地球環境を守り安全で安心できる快適な生活と文化の形成に貢献します』 に基づき中国5県に造られた作品のうち、優れた建築デザイン、建築文化や環境形成に寄与した建築家作品を設計した建築家を顕彰いたします。

昨年に引き続き今年も「第15回JIA中国建築大賞2023」を一般公募することができました。

応募建築作品は最近11年以内に竣工した建築作品とし、審査員長を古谷誠章先生、審査員を村重保則先生、前田圭介先生にお願いしました。応募期間を5月29日~7月19日(7月26日まで延長)、公開一次審査(対面&リモート)を8月18日、二次現地審査を10月中旬とし募集を開始しました。応募数は一般建築部門11作品、住宅部門6作品、合計17作品の応募を頂くことができました。

一次審査は倉敷市立美術館で行い、リモート審査も含め公開審査とし、午前の部でリモート審査2作品、午後の部で15作品が会場発表の公開審査となりました。閉会後審査員の先生方と応募者の方々の懇親会も行い建築の話に花が咲いていました。二次現地審査は一次審査を通過した一般建築4作品、住宅3作品を三日間(10月13日~10月15日)かけて巡り、応募者立会いのもと建築主のヒアリングも行われ一次審査だけではわからなかったディテールや使い勝手、建築の本質についても審査対象となりました。選考の結果、一般建築部門で「大賞1作品」「優秀賞2作品」「特別賞1作品」、住宅部門で「大賞、優秀賞、奨励賞各1作品」が選ばれました。

11月17日から11月18日にかけて開催された「JIA中国支部建築家大会IN山口2023」の18日に古谷誠章先生の講演会から始まり入賞者発表、審査員長・審査員の審査講評及び受賞者の作品紹介、表彰式を行いました。

応募・審査期間中、多くの方々のご協力、ご支援、ご配慮いただき皆様に感謝申し上げます。今後も「JIA中国建築大賞」が中国地方の社会的、文化的な発展を担うことを期待しています。


審査委員長 古谷誠章

ようやくかつての日常が取り戻されつつある中、今年も中国建築大賞の審査を無事に終わることができました。今年は倉敷市立美術館で開催された一次審査では、2者のオンライン参加および、15者の応募者による対面でのプレゼンターションをすることができ、作品に対する設計者の思いを直に伺うことができました。応募された皆さんはもちろん、準備に当たられた実行委員会の皆さんにも、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

その後、10月13日〜15日の3日にわたり、住宅3作品と一般4作品を見て回りました。今年は山口から広島県大崎上島、岡山県早島、西粟倉、鳥取、島根県松江、出雲と、中国5県の山陰、山陽それぞれに歴史を持つ風土の中で、建築家がそれぞれのクライアントの思いに真摯に応えていることが実感されました。その多様な成果は一般と住宅部門の入選作品を見れば、一目で理解することができます。

 

住宅部門の最終3作品はそれぞれに個性的なものでした。大賞《屋内庭のある家(鳥取の家)》は波板鋼板に覆われたシンプルな箱の中に、屋内庭を介して居室が配された入れ子状の住宅作品ですが、くしくも鳥取大火後に建てられたという隣接するトタン張の住宅などと馴染む雰囲気があり、とても不思議な魅力があります。

他方、優秀賞《岩山に架かる大屋根の家》は、庭や周辺道路などとつながりを感じさせる巧みな開放感を持つ住宅で、岩山や大屋根、階を跨ぐような開口部の構成などに特徴があります。

さらに奨励賞《忌部の離れ》は、松江の郊外から周囲を見晴らす山間に建つリタイヤした夫婦のための別棟で、母屋とも対比的に調和する造形が周囲の景観とも調和していました。

一般建築部門での大賞は《小郡幼稚園》、山口市内の周囲の山々や住宅地などを見わたせる傾斜のある敷地に建つ幼稚園ですが、園児がのびのびと遊び回る園庭と開放感あふれるあたかも集落のような園舎がとても魅力的です。木造のしっかりした構成とディテールや軒がつなぐ各室、各棟のつなぎの空間が素晴らしく、設計者の力量を感じさせます。

優秀賞2件のうち《広島県立広島叡智学園》は、離島である大崎上島に建つ寄宿制の高等学校で、こちらも同じく集落を感じさせるような校舎や寄宿舎の配置に特徴があります。教室なども含めた外部への開き方が秀逸で、瀬戸内の気候に大変マッチしているように見えました。

もう1件の《あわくら会館》は、役場に図書館からなる複合施設で、村の方針に則って地場産材を活用した意欲的な木造建築です。サスペントラスと呼ばれる張弦梁や、木格子状の耐震壁など、さまざまな挑戦的な木構造が実現されていて圧巻でした。子どもの読書室に降りる階段や滑り台もチャーミングでした。

最後に、一般建築部門として特別賞に選ばれた《草房》は、古民家を改修した仕事場の離れとして建てられた茶室ですが、緑化された草屋根と一角に立ち上がる茅葺きの棟がとても印象的です。出雲地域の茅葺きのメンテナンスも引き受けようとする設計者の意志に感服しました。

 

今年の入選作品は奨励賞を含むそのすべてが、多様な問題を提起し、かつそれに見事な解を与えたいずれ劣らぬ力作揃いでした。必ずや中国地方の未来につながる、たくましい建築家の信念の表れだと強く感じたところです。

 

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第14回 JIA中国建築大賞 審査結果

一般部門大賞

小郡幼稚園(山口県)

設計者 竹原義二 (有)無有建築工房

■講評
施主となる園長先生は「幼いころから木に親しみ、木の空間で暮らすことで自然へと向かう人間の感性が育まれ、農林業の持続的な発展につながる」ことを提唱されている。建築の力を信じるその姿勢に、我々建築家も勇気づけられる、なんとも頼もしい方である。13件のおうちが1尺5寸の雁行配置で軒を連ねる、山の集落のような幼稚園。スギ平角材の縦ログ構法による内部空間は、表面的な操作ではなく木そのものの存在を確かに感じられる場となっている。建築家の言う「無垢打放し」の壁の前で、子供たちの純真無垢さをより強く、自然に感じるのは、私だけではないだろう。敷地内には棚田や茶畑、菜園が設けられている。園児たちの手で栽培され収穫された米や野菜は園の食卓に供される。幼稚園で繰り広げられる子供たちの日常に、近年誰となく口にする「循環型社会」の理想の形を見た。(村重保則)

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住宅大賞

屋内庭のある家(鳥取県)

設計者 キノシタヒロシ キノシタヒロシ建築設計事務所

■講評
シルバー色の鋼板に覆われた箱の中に、居室群が入れ子状に配置され、その予約の部分が「屋内庭」と呼ばれる半外部空間となっています。半外部といっても空調空気のレベルでのことで、雨風からは守られた心地の良い中間領域的な空間です。しかしその存在によって戸建て住宅の中に「街路性」が生み出され、家族が共有する路地や坪庭のようになっている点がこの作品の真髄で、そこにはみ出す各室からの什器や備品が、あたかも北京の胡同(フートン)を思わせるような、魅力的な繋ぎと溜まりの空間になっています。周辺一帯には鳥取大火の後に人々が移り住んで建てられたというトタン張の住宅などが隣接し、この家の外装の波板鋼板がなんとなくそれに馴染む雰囲気があって、とても不思議な魅力がありました。(古谷誠章)

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一般優秀賞

広島県立広島叡智学園(広島県)

設計者 宇野享  ㈱シーラカンスアンドアソシエイツ 一級建築士事務所

良知康晴 ㈱シーラカンスアンドアソシエイツ 一級建築士事務所

土井一秀 近畿大学工学部 土井一秀建築設計事務所

■講評
離島である大崎上島の温暖な気候風土を活かし、伸びやかに建ち並ぶあたかも集落のような佇まいの高校校舎群・寄宿棟群の配置に特徴があり、周囲の風景によく馴染んでいました。教室や体育館など、人の集まる空間の隅部が開放可能で、学校内の生活が周辺地域に溢れ出して、自然な賑わいを感じさせます。同時に生徒同士の活動の相互に感じられて、独特の楽しさが生まれていました。回廊で繋がる校舎群と、同じくその先に花びらのように展開する寄宿舎棟が違和感なく連続し、屋内にはそこかしこに溜まりの空間が、屋外にはヒューマンスケールに分節された親しみのわく外部空間が生成されています。アーチ状の開口が特徴的な中央の回廊部分にはひときわ象徴性があり、平坦な地形の中に人々を呼び集める求心性が生まれていました。(古谷誠章)

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一般優秀賞

あわくら会館(岡山県)

設計者 小口亮  ㈱アルセッド建築研究所

赤木定  ㈱倉森建築設計事務所

衣笠准一 ㈱近代設計コンサルタント

山田憲明 ㈱山田憲明構造設計事務所

■講評
西粟倉村は周辺と合併せず自主独立の不退転な姿勢がまちの価値を生んでいる。村の産業である木材を中心に住民が協働しながら持続させていく拠点としてこの建築への期待は大きかったように思う。それに応えるように単に図書館と役場の機能を統合するだけではなく、建築全体で多様な使い方を誘引する様々な空間の仕掛けが設計されていた。それらの機能を統合する特徴的なデザインとして木造による張弦梁と執務スペースに架かるサスペントラスの柔らかな曲率が内部空間の一体性を生み、各々の領域をつなぎながら人の行動を喚起するものになっていた。なかでもあわくらホールは議場でもありその防音性を活かして、住民の要望から音楽イベントなど多様な用途として活用している点が印象的だった。住民と自治体が一体となり今後も創意工夫を持って多くの活用方法を生み出せる器は西粟倉村の活動をさらに飛躍させ、村民に愛されていく建築になるだろう。(前田圭介)

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住宅優秀賞

岩山に架かる大屋根の家(岡山県)

設計者 本間良平 フォームゼロ建築デザインラボ

■講評
一次審査では周辺環境の中で大きな岩が異質な雰囲気をつくりだしているのではないかと思いながら現地に赴いたが杞憂に終わった。それは古い街並みが広がる住宅地の中において、建て主の父祖が営んでいた板金工場の面影と併せ広場のような場所に建築が佇み想像以上に伸びやかさが感じられたからである。さらに、この作品の特徴でもある片流れの大屋根に穿たれた矩形の開口部と軒、そして岩山が周囲からの視線を程よく遮る働きをしつつ、南面の採光と空を取り込んでいて気持ちのよい内外空間を生んでいることに起因される。また、北面の外壁から張り出した大きな出窓は家族共有のデスクとなっており床の断面をずらすことで階下への採光と通風をとりながら大きな一室空間となっており巧みな断面構成が印象的な作品である。

(前田圭介)

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住宅奨励賞

忌部の離れ(島根県)

設計者 高橋 翔太朗 高橋翔太朗建築設計事務所

■講評
長閑な果樹や畑が広がる山の中腹に母屋に寄り添うように建つ住宅。かつてこの地に建っていた寄棟の納屋に倣いながら、端正な外観とシンプルな矩形のプランに対して開放的断面を持つ空間構成が印象的な住宅である。特に東南端部の2階の居場所からは遥か先に大山の頂きが望め、訪れた際もあたたかな陽射しと風が抜ける気持ちの良い屋根裏部屋となっていた。一方、敷地の北西側にある既存の蔵や倉庫、背面の山への開口の連続性があるとさらに2階部分における南北への抜けや、屋根裏部屋として今後の活用への冗長性が持たせられたようにも感じた。しかしながら1階居間から眼下に広がる果樹や畑を見ながら育てる姿は定年後の夫婦の住まいとしての豊かな日常の断片を感じとることができ、そして何よりも建て主夫婦がこの自然溢れる場所のよさと、南面に跳ね出した軒下での過ごし方を話されている姿にこの建築への愛着を垣間見ることができた。(前田圭介)

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一般奨励賞

KOKAGEビル(広島県)

設計者 鍵山昌信 ア・ティエス環境+建築設計事務所

斉藤智士 建築設計事務所SAI工房

■講評
呉市の中心市街地にある幅8m×奥行30mの細長い敷地に建てられたビル。

グランドレベルを誰もが自由に出入りできる「KOKAGE広場」として、内/外の境界なしに情報発信や人との交流が促される、これからの地域医療のモデルとなり得る建築である。

特筆すべきは吹抜けや階段を介して上下階へ連動する動線空間で、KOKAGE広場から2F共有スペース、M2Fテラス、3Fテラスとの関係が魅力的である。内部の色調や植栽とともに細部にわたって緊張の和らぐ場づくりがなされている。

地域共生社会を理念とする施主の志の高さもさることながら、平面の大半を地域開放することの寛容さと実現に対し、建築家と施主の双方に驚かされた。(村重保則)

 

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一般特別賞

草房(島根県)

設計者 江角俊則 一級建築士事務所 江角アトリエ

■講評
建築家自身のアトリエである古民家に併設した小さな余暇空間である。外観を特徴付けている茅葺きを実現するにあたり、現代では失われようとしている技術に苦心しながら取り組んだことが伺えた。天井の高い茅葺の内部は茶室の様な小さな囲炉裏を囲む空間であり一次審査時に気になった北面の形態も周辺の長閑な風景の中に溶け込んでいるだけではなく、周辺からのアイコンとして一役買っている様にも感じられた。土間空間に設えた水盤は内部への多様な現象を生み、椅子座・畳座の目線に合わせた開口からは遠くへ広がる石州瓦の家並みへのフレーミングがされており熟練者ゆえの技で丁寧に仕立て上げられていた。特筆すべきは茅葺作品を通してこの出雲の地に建つ数少ない茅葺民家へ向けた保存活動にも積極的に関わっており、その職域を広げた取り組みは今後の出雲の建築文化に繋がることをおおいに感じさせるものであった。(前田圭介)

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■協賛

㈱ウッドワン、㈱エフワンエヌ中国支店、㈱エヌ・エスビー受託事業部広島営業所、オスモ&エーデル㈱、カワノ工業㈱、ケイミュー㈱、コクヨマーケティング㈱小松ウオール工業㈱、三協立山㈱三協アルミ社中国支店、三建設備工業㈱中国支店、サン・フロアホーム㈱、三和シヤッター工業㈱中四国事業部、㈱ジェイジェイ、㈱総合資格、大光電機㈱中四国支店、大和重工㈱広島営業所、㈱中建日報社、DICデコール㈱大阪支店、DNライティング㈱広島営業所、東芝エレベータ㈱中国支社、TOTO㈱中国支社、㈱ノザワ広島支店、パナソニック㈱ライフソリューションズ社、 ㈱松岡製作所、三菱電機ビルテクノサービス㈱中国支社、㈱ヤマシタ、㈱LIXIL、㈱リンケン