出雲大社「庁の舎」へ保存要望書提出

出雲大社(島根県出雲市)の管理事務所兼宝物殿として1963年に建設された「庁の舎(ちょうのや)」の保存を求める要望書を、本会を含め日本建築学会など建築関連五団体が15日、出雲大社総務課に提出した。庁の舎は、戦後日本を代表する建築家の一人菊竹清則氏(1928~2011)が設計した建物で、出雲大社は老朽化を理由に建て替えを検討中とされる。本会の要望書は次の通りである。
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平成26年 3月 15日
出雲大社 宮司
千家 尊祐 様

出雲大社「庁の舎」 保存活用に関する要望書

公益社団法人 日本建築家協会
中国支部 支部長  龜谷 清
同 島根地域代表  山根秀明
保存再生会議議長代行篠田義男

 

拝啓、時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
貴社におかれましては、日頃より文化の発展と継承に深く理解を示されていることに心より敬意を表します。
この度、貴社「庁の舎」に対する取り壊しについての計画を伺いました。
1963年(昭和38年)に竣工した「庁の舍」は、その10年前火災で消失した旧庁の舍の再建活動の先頭に立ち、出雲大社奉賛会会長を努めた第23代田部長衛門氏(島根県知事)の強いリーダーシップにより推薦を受けた、当時新進気鋭の若き建築家菊竹清訓氏の設計によるものです。
「庁の舍」は菊竹氏の山陰地方における連作(島根県立博物館/1959、ホテル東光園/1964,島根県立図書館/1968、島根県立博物館/1998、など)の代表作としてとしてかけがえのない建築になっています。
菊竹氏は、「庁の舍」の設計で第15回日本建築学会作品賞(1963年)、第14回芸術選奨文部大臣賞(1964年)、第6回BCS賞(1965年)、など数々の国内の受賞に留まらず、米国建築家協会第7回汎太平洋賞を受賞する等著名な我が国の戦後を代表する建築のひとつであり、かつ世界から敬意をもって認識
され続けている現代建築であります。
また、「庁の舎」については、世界的なモダンムーブメントに関わる建物と環境形成の記録調査及び保存の為の国際組織であるドコモモ(DOCOMOMO)の日本支部であるドコモモジャパンより、2003年にDOCOMOMO 100選に選定されその国際的な評価を更に確かなものとしています。
一方建築のデザインに於いては、出雲大社の厳かな神域の中に、間口40mにも及ぶ長大なスパのポストテンションによるプレキャストコンクリート梁を用いた大胆な構造形式を用いた「庁の舍」を、日本の伝統美をモダンデザインで対比させることを見事に実現しています。
良く知られた様に、この大架構は「稲掛け」に着想を得てデザインされ、稲に当たる階段状のプレキャストコンクリートの階段状の段板のルーバーで積層された屋根材としてデザイン的に昇華され、神域の空間構成をより緊張したものに高めています。

しかしながら、「庁の舍」は経年の劣化が喫緊の課題になっております。大架構を構成する構造体は長い年月にわたって建物全体を支える重要な骨組みであり十分な強度を持った高い耐久性を持つ様に、鉄筋に対するコンクリートの被覆を十分に確保した設計になっているとされていますが、補修によ
り今後の使用が十分可能と考えられます。一方階段状の段板のルーバーは経年の劣化による更新に容易に対応する様な設計思想で考えられていますので今後の検討により、部分的な更新も視野に入れて検討が出来る可能性があります。この考え方は、昭和35年に日本で開催した画期的な国際会議(世界デ
ザイン会議)に於いて菊竹清訓、黒川紀章、槙文彦らの建築家が世界に発した建築理論(メタポリズム)として結実しています。
様々な技術的な検討が必要と考えられますが、菊竹氏の設計思想に基づいた総合的な対応を今こそ行なうべきものと考えます。
この貴重な建築は、一度失えば再現することは困難です。世界に誇るべきこの文化遺産としての「庁の舍」の取り壊しを、是非思いとどまって頂き、保存・再生のご検討を頂く様、切に御願いする次第です。
困難な課題ではありますが、この珠玉の建築を後世に存続させる為、建築界の叡智を集め技術的な検討を連携して行なうべきものと考えます。当会は、建築設計の専門家の組織として様々な専門家と協働して、「庁の舍」の保存、再生の為の様々な協力を可能な限りさせて頂く所存です。

敬具

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