第14回JIA中国建築大賞2022
審査結果レポート

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審査結果レポート

(公社)JIA 中国建築大賞実行委員長 大旗 祥
JIA中国支部では、JIAの建築家憲章の理念 『建築家は自らの業務を通じて先人が築いてきた社会的・文化的な資産を継承・発展させ地球環境を守り安全で安心できる快適な生活と文化の形成に貢献します』 に基づき中国5県に造られた作品のうち、優れた建築デザイン、建築文化や環境形成に寄与した建築家作品を設計した建築家を顕彰いたします。 昨年に引き続き今年も「第14回JIA中国建築大賞2022」を一般公募することができました。 応募建築作品は最近11年以内に竣工した建築作品とし、審査員長を古谷誠章先生、審査員を村重保則先生、前田圭介先生にお願いし、応募期間を7月15日~9月15日(9月30日まで延長)、公開一次審査(対面&リモート)を11月18日、二次現地審査を2月上旬とし募集を開始した結果、19作品の応募を頂くことができました。

一次審査を公開審査とすることで進めていくなか、昨年の「リモート審査」のメリットも考慮し、最終的に対面&リモート審査での開催としました。二次現地審査は一次審査を通過した一般建築6作品、住宅2作品を二日間(2月13日~2月14日)をかけて巡り、その後の選考の結果、一般建築部門で「大賞1作品」「優秀賞2作品」「奨励賞2作品」「特別賞1作品」、住宅部門で「大賞、優秀賞、各1作品」が選ばれました。 表彰式は来年度の5月22日の「2023年度通常総会」時に執り行う予定となっています。

総評

審査委員長 古谷誠章
コロナ禍による忍耐の時期がようやく終息に向かいつつある中、今年も中国建築大賞の審査を無事に終わることができました。今年は津山で開催されたJIA中国支部大会に合わせて、一次審査を応募者による対面でのプレゼンテーションをすることができ、作品に対する理解を深めることができました。応募された皆さんはもちろん、準備に当たられた実行委員会の皆さんにも、この場を借りて厚く御礼申し上げます。 2月13日〜14日の2日をかけて、住宅2作品と一般6作品を見て回りました。津山から岡山、福山、呉、広島、山口とそれぞれに歴史を持つ風土の中で、これからの建築家の使命を深く考えさせられたような気がします。一般と住宅部門の大賞やその他の入選作品を見れば、それだけで建築家の果たしたそれぞれの個性が感じられます。 住宅部門の最終2作品は非常に対照的なものでした。大賞《畑の家》は質の高さや無垢の素材の扱いなど既に定評となっている後藤亜貴建築設計事務所による、人里に建つさりげない住宅作品ですが、巧妙に見極められたあたかも「小屋」のようなスケール感が秀逸です。他方、吉田豊建築設計事務所の優秀賞《己斐中の家》は、クライアントの求めた崖上の敷地に建つシンプルな住宅で、眺望に恵まれた割り切りのいい3層の空間構成に特徴があります。

一般建築部門での大賞はMOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIOの《A&A LIAM FUJI》、岡山市内のごく普通の市街地に建つ一棟貸しのホテルですが、アートをそのまま市中に表出、室内はさながらギャラリーの中に泊まるかのような点がユニークです。アーティストとCLTだからこそ可能な重層パズルのような内部空間を創出した建築家との、まさに協働の賜物で脱帽しました。

優秀賞2件のうちアプルデザインワークショップによる《医療型児童発達支援センター新山口》は、同じ設計者が過去に近接する保育園などを手がけ、長らく施主の期待に応えてきた建築家として、今回新たに病気や障がいのある子どもたちの保育施設をつくったものです。もう1件の和田デザイン事務所の《自然保育ここもえん》も、津山に拠点を定めた建築家が、自らもこの地で子供を育て地域に根づいているからこそゼロから相談に乗ることのできる、施主との二人三脚の成果として初めて可能となったプロジェクトであり、共に単に建築を設計するというより、その施設の長い将来にわたってのパートナーとなる使命を担うもので、地域や地方のこれからの建築家像に重要な示唆を与えるものです。

最後に、一般建築部門として特別賞に選ばれたC&C DESIGN ARCHITECTSの《紫楽庵》は住宅の離れとして建てられた茶室ですが、これをむしろ住宅部門として見た場合には、クライアントの終の棲家とも呼べるもので、住宅に精神性の高い趣のある非日常空間を持ち込むという独特の「住宅観」を示すものとしてとても印象的でした。

人の暮らし方が多様化し、その舞台として建築に求められる性能も一様でないものとなる中、それに応える建築家の想像力と、それを建築という形あるものにまとめる力量が問われています。奨励賞を含むいずれもが中国地方の魅力をさらに発展させる、これからの建築を示唆するものとして大いに評価したいと思います。

第14回 JIA中国建築大賞 審査結果

一般建築部門|大賞

A&A LIAM FUJI(岡山県) 設計者 原田真宏、原田麻魚 MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO リアム・ギリック
■講評

岡山市内のごく一般的な街角に建つ一棟貸しホテルだが、クライアントからは、それぞれにアーティストと協働して、都市における非日常空間を生み出し、同時に建築の外観を通じて市中にアートを表出することが求められた。合わせて屋内は一組の宿泊者が都市での滞在を楽しむことが目論まれており、単なる非日常ではなく、宿泊空間としても類のない体験ができるものとする点がユニークなプログラムである。建築家はこれに対し、もはや岡山における新たな「地場産材」とも言えるCLTを用いて、これを枡形に組んでずらしながら重ね合わす手法を用いて、随所に上下方向に抜けのあるパズル的な立体空間を生み出した。創意に溢れた作品である。(古谷誠章)

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

住宅部門|大賞

畑の家(広島県) 設計者 後藤亜貴 後藤亜貴建築設計事務所
■講評

田畑が点在する中、宅地化の進む一角に焼杉の家形、無垢材の天蓋付きベンチ、木の束と名付けられたベンチがある。現地を訪れて、ベンチと家との配置、なによりその佇まいに納得した。 内部においては同じ仕上げの共通したロフト、階段、キッチン、小壁等の要素がそれぞれ絶妙なバランスで配置され、小さな気積のワンルームでありながら奥行のある空間となっている。開口部の設え、木の香り漂う無垢材とその量感のなかで、活き活きとした生活像が目に浮かび、慣習から注意深く「少しだけ」逸脱した納まりには、検討に費やされた時間が見て取れる。 精微な作品を生み出す建築家の、さらなる今後に期待したい。(村重保則)

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

一般建築部門|優秀賞

医療型児童発達支援センター新山口(山口県) 設計者 大野秀敏、江口英樹、山本真也 ㈱アプルデザインワークショップ
■講評

特徴的なベンガラ色が街のアイコンとして、また障害を持つ子ども達にとって愛着ある自身の居場所として、視認性と暖かみを与えている。短冊状の敷地に対して奥行方向へ屈折させながら壁面と開口がリズミカルに反復し、垂直方向へは市松模様に連続していくことで意匠・構造的要素を明快に統合した表裏一体のモノコックな作品。外部では陽光による彫塑的な陰影を生み、内部では一室空間でありながらも断続的な壁面のズレによって画一的な空間から逸脱した奥行きと開放感、そして様々な児童の状況にも対応可能な冗長性を持ち合わせている建築。また敷地内には同建築家による関連施設が併設されており、一連の長きに渡る協働の環境づくりに敬服した。(前田圭介)

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

一般建築部門|優秀賞

自然保育 ここもえん(岡山県) 設計者 和田優輝 ㈱和田デザイン事務所
■講評

里山一体となった保育環境を目指すパートナーとして、地元を拠点に活動する建築家との信頼関係のなかでつくられた保育園である。審査当日はあいにくの雨模様だったが、砂場で園児が元気よくスコップを手に泥遊びをしながら保育士の方と一緒に過ごしている様子がこの建築のコンセプトを物語っているように感じた。一見ささやかな印象をもつ建築でありながらも建築家が意図した園児の五感を誘発するデザインが至る所に仕掛けられており施設全体として園児と見守る大人との育ちあう情操の環境がつくり出されている作品。現在も園と関わり続けている姿は地域に根差した建築家としてのスタンスであり今後更なる環境づくりが期待できるものである。(前田圭介)

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

住宅部門|優秀賞

己斐中の家(広島県) 設計者 吉田豊 吉田豊建築設計事務所
■講評

山裾を宅地造成した変形敷地の崖上に建つ木造3層 の住宅である。各フロア10坪程度の決して広いとは言えない平面に対して、実際の面積以上に感じることのできる立体的な建築。その立体性を生み出している大きな要因として中央に配した階段と上部に穿たれた天窓、そして変形敷地を巧みに活かした五角形の平面プランと階高の変化。回遊性を持たせながら精緻に割り付けられたラワン合板で統一された内部空間は上部へ向かうにつれて降り注ぐ陽光のグラデーショナルな抑揚がとても印象的だった。また竣工当時と変わらないほど、施主のミニマムな生活とこの建築が同期しており洗練されたシンプルな豊かさを感じさせてくれる作品である。(前田圭介)

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

一般建築部門|奨励賞

小池病院(広島県) 設計者 松山将勝 ㈱松山建築設計室
■講評

本病院は既存敷地で医療を継続しながらの建設だったということだが、このことが必然的に、敷地に対してたっぷりと懐をもった、大きな構えの建物配置となり、さらには西日に直面する形で、居住環境向上のためのファサード検討に大きく影響している。整然とした格子状のダブルスキンは建物の表情に清々しさ、潔さとともに陰影を付与する、重層的なものとなっている。 ラーメン構造の中で複雑なプログラムを丁寧に解いたことで、内部オペレーションの効率化も図られ、利用者への多様な居場所の提供が可能となっている。居場所と動線空間を兼ねたラウンジ等、患者と医療の関係に「ゆとり」をもたらす空間が実現された力作である。(村重保則)

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

一般建築部門|奨励賞

KOKAGEビル(広島県) 設計者 鍵山昌信 ア・ティエス環境+建築設計事務所 斉藤智士 建築設計事務所SAI工房
■講評

呉市の中心市街地にある幅8m×奥行30mの細長い敷地に建てられたビル。 グランドレベルを誰もが自由に出入りできる「KOKAGE広場」として、内/外の境界なしに情報発信や人との交流が促される、これからの地域医療のモデルとなり得る建築である。 特筆すべきは吹抜けや階段を介して上下階へ連動する動線空間で、KOKAGE広場から2F共有スペース、M2Fテラス、3Fテラスとの関係が魅力的である。内部の色調や植栽とともに細部にわたって緊張の和らぐ場づくりがなされている。 地域共生社会を理念とする施主の志の高さもさることながら、平面の大半を地域開放することの寛容さと実現に対し、建築家と施主の双方に驚かされた。(村重保則)

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

一般建築部門|特別賞

紫楽庵(山口県) 設計者 千原康弘 C&C DESIGN ARCHITECT
■講評

住宅地が里山にかかる境界に建てられた既存住宅の離れである。第一の機能はクライアント自らが茶道を稽古し、また教授するお茶室としてのものであり、本格的な床と炉を持つ八畳の空間である。大きな特徴は茶庭の路地にあたる空間を屋内の取り込み、明るい屋外から一歩この路地に入ると別世界の暗がりに沈み込んだ感じがした。庭の明かりに誘われて角を曲がるとそこに茶室が現れる。必ずしも古式に則らない自由さを持ちながら、凛とした緊張感を孕む魅力的な空間であった。さらに、いずれはここを終の棲家としようという施主の願いも込められており、非日常を内包する新たな住宅観を拓くものとしてとても興味深いものだった。(古谷誠章)

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)
■協賛

㈱ウッドワン、㈱エフワンエヌ中国支店、オスモ&エーデル㈱、カワノ工業㈱ コクヨマーケティング㈱、小松ウオール工業㈱、三協立山㈱三協アルミ社中国支店 三建設備工業㈱中国支店、サン・フロアホーム㈱、三和シヤッター工業㈱中四国事業部 ㈱ジェイジェイ、㈱総合資格、大光電機㈱中四国支店、大和重工㈱広島営業所 ㈱中建日報社、土江建材T・Kボルト、DICデコール㈱大阪支店 東芝エレベータ㈱中国支社、TOTO㈱中国支社、㈱ノザワ広島支店 パナソニック㈱ライフソリューションズ社、 ㈱松岡製作所 三菱電機ビルテクノサービス㈱中国支社、㈱ヤマシタ、㈱LIXIL、㈱リンケン