第10回JIA中国建築大賞2018
審査結果レポート

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審査結果レポート

(公社)JIA 中国建築大賞実行委員長 千原 康弘
JIA中国支部では、JIAの建築家憲章の理念『建築家は自らの業務を通じて先人が築いてきた社会的・文化的な資産を継承、発展させ地球環境を守り安全で安心できる快適な生活と文化の形成に貢献します。』 に基づき中国5県に造られた作品のうち、優れた建築デザイン、建築文化や環境形 成に寄与した建築作品を設計した建築家を顕彰いたします。 今回は節目の第10 回となり、「第10 回 JIA中国建築大賞2018」を一般に公募しました。  応募建築作品は最近10 年以内(2008 年1 月から2018 年3 月まで)に竣工した建築作品で一般建築部門・住宅部門の2 部門とし、審査委員長を 建築家 内藤廣先生、審査員を建築家 楢村徹先生、建築家 村重保則先生、建築家 前田圭介先生にお願いしました。応募は6 月1日から7 月20 日まで行い、全国の建築家から一般建築部門は15 作品、住宅部門は10 作品の合計25 作品の応募がありました。

8月上旬の厳正な書類審査により一次審査通過作品が決定し、一般建築部門が4 作品、住宅部門が5 作品の計9 作品が現地審査対象作品として絞られました。審査員による現地審査は9 月19・20・21 日、ジャンボタクシーを利用しての3日間に亘りました。応募者立会いのもと建築主へのヒアリングも行われ、写真だけではわからないディテールや細かい使い勝手、また建築の本質ついても審査対象としました。審査員と応募者、建築主との対話を通じ中国建築大賞の意義、重みを実感する事となりました。その後の審査員による厳正かつ慎重な選考の結果、一般建築部門で大賞1 作品、優秀賞3 作品、住宅部門で大賞1 作品、優秀賞4 作品が選ばれました。  11 月16 日から11 月17 日にかけて開催された「JIA中国支部建築家大会IN 岡山2018」にて入賞者発表と表彰式を行い、審査委員長 内藤廣先生、審査員皆様の審査講評と受賞者による作品紹介を行いました。また、受賞作品のクライアントに対して記念品を贈呈し、建築への理解と協力に感謝の意を表しました。

応募・審査期間中、多くの方々のご協力、ご支援、ご配慮をいただき、この場をお借りして皆様に感謝申し上げます。 今後も「JIA中国建築大賞」が中国地方の社会的・文化的な発展を担うことを期待しています。

総評

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)
この賞が出来てから十年になります。光栄なことに、初回から審査委員長を務めさせていただきました。かねてより決意していたことですが、十年を一区切りということで、今回を最後に退任します。恩師の吉阪隆正から、十年同じ穴を掘れ、とよく言われたことを思い出します。十年同じ穴を掘れば、何事かが達成できる、ということでしょう。東京大学の土木に身を投じたのも十年です。3.11 の復興にも深くかかわりましたが、これもあと数年で十年になります。はたして中国地方で十年掘った穴は何かを達成できたでしょうか。一生懸命やったつもりですが、わたし自身にはまだよく分かっていません。その評価はみなさんに託したいと思います。 なんとなく感じるのは、応募されてくる作品のレベルがどんどん高くなってきていることです。各都市にコアになる熱心な人がいて、その熱に引っ張られるようにレベルの高い作品が増えてきているように見えます。中国支部に所属していない方の応募もよい刺激材料になっています。まさに、この賞は切磋琢磨する場になりつつあります。

賞というのは、当選する人も落とされる人もいて成り立つ仕組みです。もともと、それぞれ違う条件で、なおかつさまざまな事情を背景に建物は造られるのですから、その優劣を評価することは本来不遜なことです。この十年、わたしのかなりの独断と偏見で選定をおこなってきましたが、応募されたけれど受賞に至らなかった方々には、本当に失礼なことをしてきたと思っています。これも、建築家という社会的な立ち位置の周知、中国支部の活性化、これらを目標に掲げた企画です。ご容赦ください。

三年前まで審査に加わっていただいていた倉森治さんと錦織亮雄さん、お二人の長老と建物を見て回れたのがとても勉強になりました。わたしの独断で選考に残したものに対する道中の論評が、示唆に富んでいて楽しかった。三年前から若手の前田圭介さん、二年前から楢村徹さん、この賞の発案者である村重保則さん、というメンバーでの審査になりました。これもまたひと味違った視点に立った面白いものになりつつあります。  最後に、建物の視察に関しては、支部や地域会のみなさんのボランタリーなサポートがなければ、とても成り立たない企画でした。御礼申し上げます。  JIA 中国支部のますますの発展を祈念いたしております。

第10回 JIA中国建築大賞 審査結果

一般建築部門|大賞

道の駅 びんご府中 設計者 工藤和美 シーラカンスK&H ㈱ 堀場 弘 シーラカンスK&H ㈱
■講評

街の中にある道の駅というやや意表をついた企画です。考えてみれば、衰退しつつある中心市街地の沿道に、道の駅を作るということは発想の転換であり、すぐれたアイデアであると思います。これはプロポーザルを仕掛けた行政側の功績です。こうした試みに今後も取り組んでいだくことを期待します。この試みに設計者は巧みに答えています。この建物の基調を作っている鉄骨トラスは、市場のようなオープンな雰囲気を作り出しています。一見ラフな作りに見えますが、よく見ると実は角パイプではなく無垢の鉄棒を使い、ジョイントも含めて考え抜かれた完成度の高いディテールで作られていることに気付きます。全体の企画とそれに高いレベルで答えた設計の力量を大賞にふさわしい作品として高く評価したいと思います。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

一般建築部門|優秀賞

にしあわくらほいくえん 設計者 三浦丈典 スターパイロッツ
■講評

小さいけれどよく考え尽くされた建物です。やはり建築の審査は、訪れて空間を体験してみなければ分からないことを再確認させられました。中庭に突き出した庇の長さ、軒先の低さ、中庭を囲む庇の空間は、伸びやかでとても素晴らしいものでした。小径木の地元産材を構造や仕上げ材も含めて 随所に使うなど、ありとあらゆる手を使ってでも木材を使おうという姿勢には感服しました。シーザーストラスで作られたキャノピーと遊戯室は、当初は唐突に思えたのですが、その向こうにある村役場が次には児童施設に建て替えられ、そのときにはこの部分が中心になる、と聞いて納得がいきました。 よい建物だと思います。全体が完成したときに、また応募されるとよいのではないかと思います。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

一般建築部門|優秀賞

HUG GARDEN ほしのさと Kids 設計者 髙橋 勝 髙橋勝建築設計事務所 一級建築士事務所
■講評

特別養護老人ホーム、デイサービスなどの既存建物に隣接した建物です。行ってみて驚いたのは、古い特養の建物があって、その増築は隈さんの作品だったことです。黒く変質したまばらな杉板のファサードは、特養の外壁としてはあまりに暗く荒れたイメージでした。隈さんは知っているのでしょうか。ところが、その前に展開されている広々とした庭の左手には、軒の深い寄せ棟のデイサービスの建物、右手には応募作が配置されていて、これがとても温かな外部空間を構成していて、救われる思いがしました。ちなみに寄せ棟の建物も応募者の設計と聞いて、審査委員からは、それも含めて応募すればよかったのに、と声が上がりました。応募作の建物は、雁行させた配置の隙間に出来た空間は面白いけれど、照明の扱い方など建築的な処理の仕方が少し気になりました。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

一般建築部門|優秀賞

東和ほほえみ保育園 設計者 西井洋介 一級建築士事務所 ROOTE
■講評

製薬会社の入り口にあった他の用途の建物を、構造だけ残して保育園に改修しています。さまざまな制約がある中で、まったく印象の異なる建物に作り変えた手腕を評価したいと思います。軒を出し、庇の下にテラスを作り、それを木ルーバーで囲い、子供たちにとって安全な遊び場を作っています。一方、保育の中心となるトイレを平面の中央に配し、それがよく分かるように緑色のボックスに納め、どの部屋からも容易にアクセスできるようにしています。リノベーションであることが分かるように、残した鉄骨をボックスと同じ緑色にしているところも特徴のひとつになっています。全体構成は理解できますが、この緑色の精度が今ひとつ足りない印象を持ちました。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

住宅部門|大賞

西七区の家(岡山県) 設計者 野田大策 ARTBOX 建築工房 一級建築士事務所
■講評

居間から見えるはるか遠くまで広がる稲田の景色が印象的でした。それを見るために居間のレベルを上げ、開口部を思い切って大きく取っています。心憎いまでの構成です。平面的にも、アプローチを居間手前まで引き込んだのが成功しています。キッチン、浴室、階段、二階の収納など、それ以外にもいくつも良い点が上げられます。なにより敬服するのは、小さな住宅ですが、隅々までディテールが原寸レベルで考え尽くされていることです。そしてそれがキッチリと正確に空間化されています。この完成度は尋常ではありません。このような作品に大賞を差し上げることを誇りに思います。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

住宅部門|優秀賞

高取の家( 広島県) 設計者 岡本達幸 ㈱岡本建築設計事務所 照井健二 ㈲照井構造事務所
■講評

建て主が構造家であるだけに、木構造の意欲的な試みがなされています。北側の道路側とその反対の南側に、集成材を使った格子状のファサードがあり、これがこの住宅が目指した構造的な挑戦を巧みに表現しています。抜きを使った格子状フレームは柱の奥行きを意図的に長く取って、道路から の視線を微妙にかわすなど、意匠的な配慮も施されています。それ以外にも幾つか技術的挑戦がなされています。床版は厚み150mm のCLT を使い、通常の木構造では得られないしっかりとした床が出来ています。こうした新しい技術的な挑戦を受け止め、建築化した点を評価したいと思います。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

住宅部門|優秀賞

YUKISHIMO-K(岡山県) 設計者 可児公一 建築設計事務所 可児公一植直美 植 直美 建築設計事務所 可児公一植直美
■講評

設計者の実家の改修。以前の伝統的な住まいを骨組みを残して解体し、骨組みを再構築した上でご両親のために新たな住まい方を提案しています。平面の真ん中に居間を配置するなど、平面的にはきわめて大胆な提案です。周囲に配された部屋が不自然ではなく、心地よい中間領域を作り出してい ました。大きな旧家は使いようがないでしょう。コンパクトに実際的に作り直すこのような取り組みは、今後至る所で生じてくるはずです。その意欲を建築的に処理したことを評価したいと思います。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

住宅部門|優秀賞

祇園の家(広島県) 設計者 岡本達幸 ㈱岡本建築設計事務所
■講評

設計者自身の家。一階がコンクリート、駐車場も兼ねたエントランス上部をスッキリ見せるためにポストテンションを使っています。また不当変形の屋根をシェル状にさばくなど、いくつか構造的にも意欲的な取り組みをしているところに好感を持ちました。数年前の仕事ということで、まだ構造的な取り組みが建築として消化しきれていないところが散見されます。窓の処理、仕切り壁と屋根の梁との取り合いなど、気になる所もありますが、今後の活動に期待して賞としたいと思 います。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

住宅部門|優秀賞

境港のコートハウス(鳥取県) 設計者 来間直樹 クルマナオキ建築設計事務所
■講評

いつもながらのコートヤードの作品です。コートヤードはもはや来間さんのスタイルになりつつありますね。マンネリを恐れることはありません。繰り返すことが必要です。熟度は次第に高まっていくでしょう。完成度という点からは、これをもって第一線と勝負するにはまだまだです。ここまできたらこれを、誰もまねの出来ないレベルにまで突き詰めるべきです。思い浮かべるのは、アールトのセイナッツァロ、宮脇壇さんの「松川ボックス」、西澤文隆さんの「正面のない家」、 コルドバの旧市街地。西澤さんは晩年、コーヤード論をやろうとしていました。今後の健闘を祈ります。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)