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第9回JIA中国建築大賞2017
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審査結果レポート
(公社)日本建築家協会中国支部 実行委員長:岡山地域会長 黒川 隆久
JIA中国支部では、JIAの建築家憲章の理念にもとづき、中国地方のすぐれた建築デザインや建築文化や環境形成に寄与した建築作品を設計した建築家を顕彰する目的で、 2009年にJIA中国建築大賞を創設した。本年は第9回となり、「JIA中国建築大賞2017」 を一般に公募した。 応募建築作品は最近10年内に竣工した一般建築部門・住宅部門の2部門とし、審査委員長には、建築家・内藤廣先生、審査員には、楢村徹氏、村重保則氏、前田圭介氏に お願いしました。
全国の建築家から一般建築部門は9作品、住宅部門には16作品の応募があり、1次審査に一般建築部門は3作品、住宅部門は8作品がそれぞれ選ばれた。 その後、9月13、14、15日に、審査員による現地審査を行い、一般建築部門は優秀賞2作品、特別賞1作品、住宅部門は大賞1作品、優秀賞3作品、特別賞1作品が選ばれた。 11月17、18日に開催されたJIA中国支部建築家大会IN長門2017にて、入賞発表と表彰式を行い、審査委員長内藤廣先生の講評と受賞者による作品説明を行いました。また、受賞作品の施主に対して記念品を贈呈し、建築の理解と協力に感謝の意を表しました。
総評
審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)
中国建築大賞も回を重ねて九回目となりました。みなさんのご協力もあり、中国地方の建築設計を切磋琢磨する場として、一定の成果を重ねてきているのではないかと思っています。 本来、機能も条件も違う建物を、写真で一次選定をし、限られた時間に訪れただけで評価することには無理があります。また、評価すること自体、失礼なことをしているのかも知れません。勢い、やむを得ず審査は審査委員の経験と直観に頼ることになります。しかし、切磋琢磨する場があればこそ、地域全体の設計に対する意識も向上し、末は、建築に対する世の中の理解や建築家に対する世の中の認識も変わっていくのです。そのことを信じて、無理を承知で審査に当たっています。 昨年度から、若い世代を代表して福山の前田圭介さんに審査に加わってもらいました。また、永年審査ための長旅をご一緒させていただいてきた広島の錦織亮雄さんと岡山の倉森治さんが、今年度から勇退され審査に加わらなくなりました。お二人からはひとりの建築家として本当にたくさんのことを学ばせていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。 お二人に代わって、今年度から倉敷の街造りを進めてこられた楢村徹さん、もともと本賞を立ち上げた責任者のひとりである岩国の村重保則さんが加わりました。中国建築大賞は、また違ったステージに入ったことになります。
新たな審査委員が加わったこともあり、今年は審査に際して例年より多くの議論を交わしました。各委員が率直な印象を述べ、それをとりまとめる形で結果を決定しました。その結果、現地審査で受賞に至らなかった応募者も数点出ました。この方々も現地審査に際しては真摯に説明と対応をして下さいました。こころより感謝いたします。いずれも実力のある方たちです。また本賞に挑戦してくださることを期待しています。
第9回 JIA中国建築大賞 審査結果
一般建築部門|大賞
該当作品なし
一般建築部門|優秀賞
「洸庭」 設計者 名和 晃平 李 仁孝 古代 裕一(㈱SANDWICH)
■講評
こわいもの見たさで訪れましたが、不思議な後味を残す建物です。外観は、こけら葺きでくるまれた異様なフォルムが宙に浮いています。中に入るとひたすら闇です。その中で名和晃平さんのインスタレーションを見ることになります。つまり、いわゆる建築的体験をすべて外したところであらゆることが展開されるわけです。これが建築なのか、議論のあるところです。建築でなくてもよいかも知れない、とも思いました。だだ、本賞は建築賞ですから、そこが微妙なところです。さりとて、全体から細部にまで渡るこだわりは評価せざるを得ません。この建物の是非をより広く多くの人に議論してもらうために入選としました。こちらの立ち位置を問われる問題作です。
審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)
一般建築部門|優秀賞
「山陰中央テレビ新社屋」 設計者 赤木 隆 黒川 祐樹(㈱日建設計)
■講評
コンクリートに対するこだわりが凄い。地盤条件も良くない敷地だと思いますが、コンクリートで見事に大きな建物を構成させています。壁面のクリープもなく、施工的にも多くの神経とエネルギーが注がれたことでしょう。特に目立ったのは、スタジオを構成している段々の杉板型枠の壁面です。よくあれだけのことが出来たと感心します。コンクリート以外の部分、エントランスの木天井や階段室の木壁は、意匠的にコンクリートほどの説得力がありませんでした。しかし、総体として堂々とした立派な建物だと思います。
審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)
一般建築部門|特別賞
「 木テラス[KITERASU]- 久世駅CLTモデル建築物 – 」 設計者 小原 賢一 深川 礼子(㈱ofa)
■講評
町が仕掛けた木材振興のコンペで当選し実現化した建物です。木を直角方向に貼り合わせて作るCLT材は、異方向性の強い木の弱点を補う可能性のある材料です。真庭町はこれを産業として育て上げようとしています。そのためのサンプルとしてこの企画がなされたようです。CLT材の特性を生かした見たことのないトイレでした。風通しが良く、とかく木造にこだわると空間が暗くなりがちですが、トップライトを上手く使って明るい空間になっていました。完成後の変形の計測などもフォローしているとのこと。社会的に意義のある試みとして特別賞としました。
審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)
住宅部門|大賞
旦東の家 (岡山県) 設計者 古南 将 (㈱古南設計室)
■講評
住宅は実際に行ってみなければ分からない、ということを痛感させられました。 第一印象では、それほど良い建物とは思いませんでした。庭を囲む塀の板張りにムラが出ていて、全体として外観は控えめな建物なのだから、誰の目にも触れるこの部分に何故もっとこだわらなかったのだろう、という印象を持ちました。後で聞けば、これは施主が塗ったとのこと。そうであればこれは別物です。建て主の情熱は、上手い下手を越えているからです。
玄関を入った所から始まる左官壁の空間はとても素晴らしいものでした。重量を感じさせ、それでいて温もりを感じさせます。この空間から発せられるものには、モノにこだわり抜いた末に空間に滲み出てくるオーラが在りました。主役である左官壁を際立たせているのは、脇役である開口部のディテールです。枠のディテール、これが実に渋い。そして高さの押さえ方が素晴らしい。そこから引き出されてくる建具には、庭に入ってくる光を楽しむための絶妙な仕掛けが施されています。前の通りとその向こうにある小学校との関係の造り方、さらに遠くに見える山の借景、収納庫に設けられた通気の小窓から見えるお寺。どの部分にも手を抜かずにこだわったことが分かります。 地味な建物ですが、素晴らしい仕事をされたと思います。口うるさい同僚の審査委員のみなさんも感心しきりで、全員一致で大賞とすることにしました。
審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)
住宅部門|優秀賞
風谷の家 (広島県) 設計者 穂垣 友康 穂垣 貴子 (くらし設計室)
■講評
文句なく完成度の高い建物です。施主は家具の製作所のオーナーで、さほど広くない谷間の工場の跡地に建てられています。斜面地で敷地条件はとても難しかったと思いますが、それを見事に解いています。建物にアプローチするあたりの構成がとても素晴らしい。吉村順三を思わせる立ち姿とディテール。ずいぶん吉村さんについて勉強したんだろうな、と思いました。印象的だったのは、リビングダイニングの一段高くなった作り付けソファのあるスペース。さして広くはないのですが、とても居心地が良かった。
審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)
住宅部門|優秀賞
おかやまのいえ (岡山県)設計者 和田 七重 比護 結子(一級建築士事務所 ikmo)
■講評
生家の記憶をなぞるように辿り、それを若い世代でも使えるようにリメイクした建物。ふつうなら、新しい部分と古い部分を切り分けて、その切り分け方が建築的な構成の面白さを構成するのですが、この建物では新旧が混在した不思議な在り方が魅力になっています。付け加えたかに見える部屋が古い部分だったりする。基本的には旧建物を減築して、その部分を利用して内部を明るくしたり構造的な補強したりしています。記憶を辿りながら、消してはいけないものを選び取って減築する。これは新しいかも知れません。
審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)
住宅部門|優秀賞
マキダナハウス (島根県) 設計者 来間 直樹(クルマナオキ建築設計事務所)
■講評
来間さんの中庭と薪棚は、もはや定番ですね。数年前にできた建物とのこと。中庭がすっかり生活の一部になっていました。メンテナンスヤードと裏口の動線を兼用させたところ、その上を物干しにして低く処理し、中庭への光の入れ方に工夫が凝らされているところ、山陰地方ならではのスタイルになっていると思いました。正面のファサードの扱いなど、気になるところもありましたが、中庭の魅力に負けました。
審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)
住宅部門|特別賞
木の風景 (山口県) 設計者 伊藤 立平(伊藤立平建築設計事務所)
■講評
施主が木材関係で、椎の木の利用を広めたいという志の元にこの住宅は設計されました。ですから、住宅でありながら椎材のショールームのような建物です。 その目的は充分達成されているように思います。一見奇異な立面の格子も、椎材の乾燥過程を援用したものだとのこと。リビングの吹き抜け空間など気になるところもありましたが、施主と設計者による建築を越えた挑戦的な姿勢が共感を呼び、特別賞としました。
審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)