第8回JIA中国建築大賞2016
審査結果レポート

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審査結果レポート

(公社)日本建築家協会中国支部 実行委員長実行理事  来間 直樹
JIA中国支部では、JIAの建築家憲章の理念『建築家は自らの業務を通じて先人が築いてきた社会的・文化的な資産を継承、発展させ地球環境を守り安全で安心できる快適な生活と文化の形成に貢献します。』 に基づき中国5県に造られた作品のうち、優れた建築デザイン、建築文化や環境形成に寄与した建築作品を設計した建築家を顕彰いたします。今回は第8回となり、「第8回 JIA中国建築大賞 2016」を一般に公募しました。

応募建築作品は最近10年以内(2006 年1 月から2016年3 月まで)に竣工した建築作品で一般建築部門・住宅部門の2部門とし、審査委員長は 建築家 内藤廣先生、審査員は 建築家 倉森治先生、建築家 錦織亮雄先生、建築家前田圭介先生にお願いしました。応募は7 月1日から8 月24 日まで行い、全国の建築家から一般建築部門は17 作品、住宅部門は12 作品の合計29 作品の応募がありました。  9 月上旬の厳正な書類審査により一次審査通過作品が決定し、一般建築部門は1作品、住宅部門は7作品の計8 作品が現地審査対象作品として絞られました。審査員による現地審査は9 月13 日と14 日の2 日間に渡り、島根をスタートし鳥取、岡山、広島へと約600km を移動しながら行いました。応募者立会いのもと建築主へのヒアリングも行われ、写真だけではわからないディテールや細かい使い勝手。ま た建築の本質ついても審査対象としました。審査員と応募者、建築主との対話を通じ中国建築大賞の意義、重みを実感する事となりました。その後、内藤廣先生、倉森治先生、錦織亮雄先生、前田圭介先生による厳正かつ慎重な選考の結果、 一般建築部門は特別賞1作品が、住宅部門は大賞1作品、優秀賞6 作品が選ばれました。

11 月18 日から11 月19 日にかけて開催された「JIA中国支部建築家大会IN 島根2016」にて入賞者発表と表彰式を行い、審査委員長 内藤廣先生、審査員 倉森治先生の審査講評と受賞者による作品紹介を行いました。また、受賞作品のクライアントに対して記念品を贈呈し、建築への理解と協力に感謝の意を表しました。  応募・審査期間中、多くの方々のご協力、ご支援、ご配慮をいただき、この場をお借りして皆様に感謝申し上げます。今後も「JIA中国建築大賞」が中国地方の社会的・文化的な発展を担うことを期待しています。

総評

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)
まず、この賞の意義に賛同し応募して下さった建築家たちに御礼を申し上げたい。前川國男が語ったように、JIA は諸氏横議の場なのだから、各氏が精魂傾けた作品を持ち寄り、 それを俎上に上げて切磋琢磨する団体であるはずだ。そうした活動のひとつがこの賞だと思っている。普通に考えれば、それぞれ事情も異なり、たいへんな労力を注ぎ込んだ 建物を、良いの悪いのと評価すること自体、不遜の極みとも言える。しかし、こうした場なしには、長い目で見て中国地方独自の建築文化を生み出すことはできない。そのための 横議の場として、失礼を承知であれこれ言うことをご容赦いただきたい。

第8回 JIA中国建築大賞 審査結果

一般建築部門|大賞

該当作品なし

一般建築部門|特別賞

「米子市公会堂」 設計者 江副 敏史(㈱日建設計) 石坪 章(日建設計コントラスクション・マネジメント㈱) 浦川 英敏(㈱桑本総合設計)
■講評

一般建築部門は、今回は振るわなかった。毎年のことだが、この賞の現地審査は過酷だ。500km〜700kmを、建物を見ながら限られた時間で走破しなければならない。このスケジュールを押しても、どうしても見に行かなくては、と思わせるだけのものがなかった。一般建築部門には年によって波がある。応募数は景気の動向にも左右されるところがある。残念ながら今年は総数も少なく振るわなかった。 その中で、特別賞の米子市公会堂は異彩を放っていた。保存修復の好例として評価すべきだ、として特別賞とした。市では保存と解体新築が激しく議論されたらしいが、行政側の判断で耐震改修をして保存修復することとなった。建設されたのは1958年、市民の募金もかなりあったから、行政側が建てて耐用年限が来たから壊す、というわけにはいかない。そうした経緯もあって保存に決したのだろう。

この間、保存を熱心に訴えた一人がJIA鳥取地域会の来間直樹さんだ。耐震改修を請け負ったのは日建設計。屋根を軽量にし、水平耐力を内側の柱列にまで引き寄せて処理した。この建物の大切なところを損なわないように細心の注意を払って耐震化した手腕は素晴らしい。市民はどこを改修したのか分からないだろう。良くできた保存耐震改修ほど目立たない。建築のアクロバットな形態を競うのとは対称的な範疇の仕事だ。建築の本義を理解し、地味で目立たないところに膨大なエネルギーを注力した姿勢を高く評価したい。(内藤 廣)

建築家 村野藤吾に敬意を払い既存の読み取りから、工事方法や素材の検証など現代の技術を総動員し、音楽ホールとしての機能をアップデートしながらも変わらないオリジナルの姿に感銘しました。今を生きる私たちが当時と変わらぬ公会堂を共有しながら日常の中で利用し、世代を越えて体験できることが何よりも建築の本質であり、米子の皆さんの念の表れのようにも感じました。人々の価値観が益々多様化する現代において、このプロジェクトが今後全国の自治体や市民に浸透し存続の危機にある多くの名建築を未来に紡いでいく事例になる意義深い取り組みでした。(前田圭介) 審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

一般建築部門|優秀賞

該当作品なし

住宅部門|大賞

HOME BASE (鳥取県) 設計者 小林 和生 小林 利佳 (㈱PLUS CASA)


■講評 山奥のさらに奥の街、そのまた奥にこの住宅はある。設計者のお父様が建設業で、その工場を改築して自宅にしている。都会で設計を学び、Uターンで戻ってきた。夫婦と三人の子供が暮らしている。外見は普通の工場、窓には模型が並ぶ。一階は小さな設計事務所、二階に案内されると大きな空間とそれを仕切るLVLで仕上げられた巨大な壁が立ち現れる。この場所に生きる意気込みが伝わってくる。単純な構成とライフスタイル、それを空間として表現した力量を評価して今年度の住宅部門の大賞とした。(内藤 廣) 元々の倉庫の空間性が色濃く残っているHOME BASEは建築家である小林さん夫婦の自邸です。

応募資料を見た時に住宅としての居場所というよりは店舗やショールーム的な空間のように感じていました。しかし現地で色々と伺う中、家族5人がこの住まいの中で温熱環境も含め、伸び伸びとボール遊びなど楽しみながら生活している様子が伺えました。倉庫という大きな器だからこそ住む人に、何か大らかな普段の生活とは違う行為を促すことがあるように思います。コンバージョンだからこそ意図していない気積や間取り、開口の切り取り方など多くの要素を生活に変換したときに初めて新しい生活が見えてくる気がしました。(前田圭介)

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

住宅部門|優秀賞

求院の家 (島根県) 設計者 村梶 招子 村梶 直人  (ハルナツアーキ)
■講評

目の前には豊かな稲田の出雲平野が広がっている。稲田と家の間に道路があり、広がる景色を手に入れながら、この道路を行き交う車の往来は見たくない、これがこの建物作り方のすべてだ。居間のレベルを上げ、糸杉の生け垣で遮蔽し、生け垣の上に思い切り横長の窓を開けている。居間からの眺めは道路の往来をまったく感じさせず、その先に広がるのは素晴らしい眺めだ。プライベート空間は一段下がったところにあり、さして大きくない空間に好ましい変化を生み出している。コンパクトで良くできた空間だった。(内藤 廣)

 目の前が道路であることを感じさせない断面の関係性が想像以上に効いていました。内部においてもスキップフロアの変化によって一室空間でありながら緩やかに閉じたり開いたり各室としての領域が行為によって生まれる様が実際に訪れて感じることができました。魅力的な南北の断面と開口部をつくる構成の中で南面への開き方やテラスの使い方が少し気になりました。内外部共に使いづらい高さのようにも感じ、庭との直接的なつながりがもう少しあってもいいように思いました。(前田圭介)

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

住宅部門|特別賞

SOJA-O (岡山県)設計者 可児 公一 植  美雪(建築設計事務所 可児公一植美雪)
■講評

不思議な住宅だった。あえて間取りを作らない。住み手に聞くと、住み方がどんどん変わっていくという。場合によっては、朝と夜で変わるのだという。グリッドプランを建具で自由に仕切られるようになっている。この空間に足を踏み入れたときは驚いたが、よく考えてみれば一昔前の畳敷きの住まいならこんなことは当たり前だった。まったく現代的な手法で一昔前の住まい方に戻ったのかも知れない。ディテールへのこだわりが、このあり方に説得力を持たせている。(内藤 廣)

 住宅街の一角にある敷地の中央にあっけらかんと配置された佇まいは思った以上に街に違和感なく溶け込んでいました。それは訪れた時玄関にもたれ掛けていた葦簀による生活感がそうさせたのかもしれません。1820㎜のモジュールによる柱が生み出す生活の自由さと不自由さが心地よく、新しい自由さを獲得しているようにも感じました。その反面、東側に集約していた水回りにおいては同モジュールや配置の自由さが感じられず居間のエリアのように大らかな設計でも良かったのではと思いました。今後家族の変化と共に空間がどのような変遷していくのか楽しみな住宅でした。(前田圭介)

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

住宅部門|優秀賞

インナーテラスの家 (広島県) 設計者 後藤 亜貴(後藤亜貴建築設計事務所)
■講評

設計者の後藤さんは一昨年の住宅部門の大賞を受賞した人だ。設計手法は進化している。以前の作品は外壁に板金を使っていたが、この住宅では外壁に焼き杉の板を横貼りにしている。焼き杉の板目の模様が美しいのと、このほうが耐久性が格段に高くなるので使用したとのこと。中庭を囲んだ内部空間のさばき型は見事で、居間との空間的なつながりなど申し分ない。後藤さんは、住宅に対するアプローチと設計手法を完成させつつあるように見える。(内藤 廣)

横長に伸びる敷地に対して中央の庭とインナーテラスを内包しながらコの字型プランが印象的な平屋の住宅でした。庭を中心とし背面の山への眺望など周辺地域を丁寧に読み取りながら後藤さんらしい素材や納まりが心地よく造られていました。少し気になったのは閉鎖的に感じた北面ファサードと南面の水田への広がりに対する境界の在り方についてです。家族の暮らしを中心とした周辺環境への接続がある中で、新興住宅地の中で暮らしというものがもう少し開きながら接続できる建築と風景の可能性を考えさせられました。四季を通してインナーテラスと共に日々の暮らしを楽しんでいる施主の言葉と笑顔が建築家との良好な関係を物語っており嬉しく感じられる審査でした。(前田圭介)

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

住宅部門|優秀賞

cell (広島県) 設計者 高橋 幸子 澁川 佳典(nest)
■講評

これも山のなかの奥のまた奥、別荘地の一画の森の中にある。十年前に出来た建物だそうだが、軒が大きく出ているので白い壁がまったく汚れていない。築後一年と言われても納得しただろう。この賞の応募規定が築後十年以内というので応募したという。夏と冬とを使い分けるという平面構成が面白い。床レベルをRCで台状に地面から切り離しているので、虫の侵入や雪に対しても対処が可能な造りになっている。(内藤 廣)

cellは竣工から10年目での応募でしたが、年数を感じさせないメンテナンスの行き届いた週末住宅であり周囲の森に対して建築とアプローチの角度がとても印象的でした。特徴的な夏と冬の居間、そして寝室部屋へとリニアに並列されたプランは大きな扉の可変性によって、内外の空間変化が季節によって楽しめる住宅でした。 設計者の考えである”夏と冬の季節に応じた住みよい場所を探しながら~“というコンセプトの想像が膨らみすぎて現地審査では実際の話を伺いながらも少し納得行かない点を感じました。。。もっと想像を越える暮らし方をこの豊かな敷地の中で考えてみたくなりました。建築の審査は往々にして竣工後間もない場合が多いなかで、10年という時間からは暮らしの変化や耐久性、そして愛着など建築と人との大切な関係性が感じられました。(前田圭介)

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

住宅部門|優秀賞

門前の農家 (岡山県) 設計者 大角 雄三(一級建築士事務所 大角雄三設計室)
■講評

大角さんの仕事は、もはや名人の域に達している。その大角さんの自邸だ。悪いはずがない。たくましい木造の柱と梁の完成度の高い空間は、すでに何回も見ている。外装に竹が使われている。それが繊細で美しい。玄関にいきなり仏間が開かれているのには驚いた。合理的だ。これは新しい空間構成かも知れない。高齢のご両親が畑で働く姿を見守れるようにリビングが配置されている。何気ない気遣いが感じられる成熟した作品だった。(内藤 廣)

この周辺に古くから継承されてきた家型の風景を紡ぎながら新しくもあり、懐かしくも感じさせる大角さんの技量が光る気持ちのいい住宅でした。玄関に入った前室のような入れ子の仏間空間が印象的で柔らかく閉じながら背面の居間へ続くバッファとして機能し、中庭を中心に連続しながら田畑へと風景が連なる住まいがつくられていました。昔からこの地の住まいを肌で感じてきた大角さんだからこそ、周辺に対する作法があるように感じました。審査後、敷地をあとにして数分進んだ先にはそういった作法を無視した醜い住宅群が目に入り、この地域の未来を憂いてしまいました。丁寧に読み取りつくりあげることが如何に難しく大切なことかを考えさせられる住宅でした。(前田圭介)

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

住宅部門|優秀賞

Cafe trois (島根県) 設計者 原 浩二(一級建築士事務所 原浩二建築設計事務所)
■講評

住宅とカフェが一体化した空間。数年前に建てられた住宅と新しく建てたカフェは一連の群造形になっていて、建物同志が楽しく会話をしているようだ。その隙間を施主が楽しみながら使っていて、そのあり方が微笑ましい。田園生活のなかの小さなファンタジーが、一連の建物群によって生み出されているように感じた。(内藤 廣)

café troisは長閑な出雲平野に呼応するかのように、竣工から3年が経ち、ようやく週末カフェが営まれてからの審査でした。予算が厳しい中で建築家は分棟案を選択し、各棟の意匠・配置など敷地周辺の風景と馴染むような場が創出され古くからこの土地に建っていたかのような佇まいが印象的で好感を持ちました。施主のライフスタイルの強さ!?によって建築家 原さんの技量がいい意味で希釈されたような空気感があの場所に適しているように感じました。(前田圭介)

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)