JIA中国支部では、JIAの建築家憲章の理念にもとづき、中国地方のすぐれた建築デザインや建築文化や環境形成に寄与した建築作品を設計した建築家を顕彰する目的で、2009年にJIA中国建築大賞を創設した。本年は、第5回となり、「JIA中国建築大賞2013」を一般に公募した。
応募建築作品は最近10年内に竣工した一般建築部門・住宅部門の2部門とし、審査委員長には 建築家・内藤廣先生、審査員には倉森 治氏、錦織 亮雄氏にお願いしました。全国の建築家から一般建築部門は10作品、住宅部門は12作品の応募があり、1次審査に一般建築部門は4作品、住宅部門は4作品がそれぞれ選ばれた。
その後9月2日に山陰方面、9月3日に山陽方面にて審査員による現地審査を行い、一般建築部門 大賞、特別賞、優秀賞各1作品、住宅部門 大賞1作品、優秀賞3作品が選ばれた。
10月25日、26日に開催されたJIA中国支部建築家大会IN防府2013にて入賞発表と表彰式を行い、審査委員長内藤廣先生の講評と受賞者による作品説明を行いました。また、受賞作品の施主に対して記念品を贈呈し、建築の理解と協力に感謝の意を表しまた。
ときたま、わたしたちはいったい混迷の時代のどの辺りを過ごしているのだろう、と考える。まだまだ混迷は続くのか。いや、もうすぐ夜が明けるのか。それとも、いつも今を生きる人間にとっては、時代は混迷しているように見えるのか。3.11以降、漠然とそのようなことをよく思うようになった。
東京という大都会に暮らしていると、時代はますます混迷の度合いを深めているように見える。一方で、中国建築賞の審査のように地方を駆け回ると、都会では見えてこないものが見えてくる。都会を離れた人々の暮らしは、しぶとく文化を生み出し続けているのである。暮らしがある以上、建築の文化は必ず命脈を保っていくはずだ。その営みは、これまでも生み出し続けられてきたし、これからもずっと続いていくものなのだ、ということを実感することができる。
本賞は今年で五年目になる。重鎮である倉森治さんと錦織亮雄さんとともに中国地方行脚をする。お二人のお話を伺いながら建物を見て回る。この体験は素晴らしいものである。
先般の審査の道中、お二人と話していて、年々レベルが上がっていくのには、この賞の存在が寄与しているのではないか、ということで意見が一致した。多くの支部会員のサポートで成り立っているこの賞を、今後とも中国地方の建築文化向上のプラットホームとして、全国に誇れるものとなるよう育てていってほしい。もとより、賞は応募者と選定者との対話で成り立つものだ。応募がなければ審査も成り立たない。賞を育てるのは、みなさんの勇気ある応募である。この運動を盛り上げるため、また、切磋琢磨する熱い場とするためにも、是非ともより多くの応募をいただきたいと思っている。
■講評
「Peatuts」で一般建築部門で大賞を受賞した前田圭介さんは、「森のすみか」で2011年に住宅部門の大賞を受賞した。福山を根城に活躍の巾を広げている。いまや全国版の売れ線になりつつあるが、建築に対する取り組み方が変わらないのがいい。「Peatuts」は奇妙な建物である。写真で見たときは、これはゲテモノかと思ったし、木材を雨ざらしにしたディテールにも疑問があった。第一、写真と平面からでは、どこまでが外部でどこからが内部なのかも判然としない。ところが実物を見ると、それらは巧みに処理されていて、彼の気配りと建築的な意図に対するこだわりとが絶妙にバランスしている。けっして恵まれているとはいえない校舎の片隅のあの狭い場所に建物を建てるとしたら、周囲とうまく付き合うように有機的な平面を取るのはきわめて妥当な解決方法だ。また建物を隙間だらけにして外部を出来るだけ取り込もうとしたことにも納得がいく。壁で囲ったら小さな小屋のような空間になったろう。狭いが見通しがきいて、なにより子供たちにとって楽しく豊かな空間ができている。それが一番の成果だ。優れた作品だと思う。今後ますますの活躍を期待したい。
審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)
■講評
特別賞の「倉敷物語館周辺再整備事業」の楢村徹さんの仕事は、いまさらあらためて評価するまでもなく立派なものだ。古民家研究会を率いて地道な研鑽を積んできた。この賞の初回である2009年に住宅部門で大賞をとった神谷昭雄さん、今回住宅部門で大賞をとられた大角雄三さんなど、このグループはいまやひとつの勢力になりつつある。これをこの地域の建築の文化と呼んでもいい。楢村さんは、倉敷を根城に丁寧な仕事を積み上げ活動を続けてきたが、今回のようにまとまって成果が見えるかたちになったのは初めてだろう。これまでの活動の厚みと今回の成果を高く評価し、特別賞を差し上げることにした。
審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)
■講評
住宅部門で大賞となった「大山の家」の大角雄三さんは、昨年の「おかやま山陽高校記念館」、2009年の「黒谷の家」など、本賞の常連のひとりである。独特の空間のタッチは健在で、これまでのノーハウを洗練されたかたちでまとめあげている。とくに、縦のスリットを活かした立面は印象的で、土着的でありながら強い個性を表現する手法として大きな成功を収めている。外部空間との呼応の仕方も見事であり、機能的にも練り上げられた優れた建物である。古民家の改修を手掛けてきた成果がディテール処理の巧みさに現れ、新築の住宅の中で新しいスタイルを生み出しつつあることを感じる。
審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)