第11回JIA中国建築大賞2019
審査結果レポート

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審査結果レポート

(公社)JIA 中国建築大賞実行委員長 田尾 繁
JIA中国支部では、JIAの建築家憲章の理念 『建築家は自らの業務を通じて先人が築いてきた社会的・文化的な資産を継承・発展させ地球環境を守り安全で安心できる快適な生活と文化の形成に貢献します』 に基づき中国5県に造られた作品のうち、優れた建築デザイン、建築文化や環境形成に寄与した建築家作品を設計した建築家を顕彰いたします。今回は第11回目となり、「第11回 JIA中国建築大賞2019」を一般公募しました。 応募建築作品は最近10年以内に竣工した建築作品で一般建築部門・住宅部門の2部門とし、審査委員長を 古谷誠章先生、審査員を 楢村 徹先生、 村重保則先生、 前田圭介先生 にお願いしました。 審査委員長つきましては第11回までの長きに亘り 内籐廣先生 にご就任して頂いておりましたが、10年の節目を終え、内籐先生よりご推薦を頂いた 古谷誠章先生 に今回よりご就任頂くこととなりました。  新審査委員長の提案で一次審査を「公開審査」とすることとなりお世話をする山口地域会としては手探りしながら準備をはじめました。応募期間締切りを7月20日、一次審査を8月31日、二次審査(現地審査)を10月11日から3日間とし募集を開始しました。

エントリーの出足が悪く(一次審査が公開審査となったことでハードルが上がったのか、例年通りなのか不明ですが)締切りを8月9日まで延長しました。 結果、一般建築部門20作品、住宅部門5作品の応募を頂き、何とか開催できる運びとなりました。 一次審査当日も受付・プレゼン用DATAの確認・25作品のパネルの用意、分刻みのプレゼン・質疑応答・先生の講評、運営はドタバタしましたが、何とか成功裡に終えることができ、その後の古谷先生を囲んでの懇親会も大変盛上り、有意義な時間となりました。 その後の二次審査、支部大会での表彰式を含め、支部大会主管の広島地域会を始め各地域会の皆様のご協力により「第11回 JIA中国建築大賞2019」を終えることができました。 皆様、大変ありがとうございました。

総評

審査委員長 古谷誠章
今年初めて中国建築大賞の審査に委員長として携わりました。中国地方は私自身にもいささか馴染みのあるところではありますが、それでも稀に見る大型の台風19号をかい潜りながらの実地審査はなかなかスリリングでもありました。奇跡的に何事もなく10件の作品を見て回ることができ大変感謝しています。 JIAでは私自身同じような賞を東北支部、四国支部などで審査していますが、それぞれの地方に特色があって今回もまたとても興味深かったです。現地審査作品は一つを除いてほとんどが山陽側に立地するものであったために、気候に対しては比較的おおらかに作られているように感じましたが、建築の種類や内容に関しては千差万別、それぞれに個性的で多様なものがあり、まさに異種格闘技のような様相でありました。何が中国地方らしいのかを一言で述べることは困難ですが、なだらかな中国山地と同様に建築もシャープでありながらもトゲトゲした感じがせず、全般に穏やかな印象を持ちました。

いずれも素晴らしい力作ぞろいです。 また今回は、一次審査を公開として、応募者の皆さんに自作のプレゼンテーションをしていただく方法を取りました。これは、最初はJIA新人賞の一次審査のためにかつて 私が考え出した方法で、その後の東北住宅大賞、四国建築大賞でも取り入れています。まず何よりも応募する皆さんが他の応募者の作品に触れ、審査員に触れ、互いに交流することが大切と思うからです。誰にも会わずにただ書類審査で落とされては、何の実りも学びも得られませんが、こうして公開審査とすることで、様々な価値観やアイディアをキャッチボールすることができるのではと考えています。 次回もこの方針で行いたいと考えていますので、ぜひふるって応募してください。

第11回 JIA中国建築大賞 審査結果

一般建築部門|大賞

新山口駅北口駅前広場「0番線」(山口県)設計者 宮崎 浩 (株)プランツアソシエイツ
■講評

JRの自由通路を含む駅前広場の計画だが、新山口駅の北側一帯の都市再開発提案を視野に入れて、時間軸も含めてより射程の長い、幅広い構想からなされた秀逸なデザインである。単に建築の範疇にとどまらず、都市的であり、環境的であり、また地域の市民活動の拠点としても巧みにデザインされており、さらには個々のストリートファニチャーに至るまで、緻密に構想されていて作品として極めて水準が高い。駅北側地区の計画はまだ途上にあり、この作品がこれからの周辺の都市開発に対する大きな指標となっている。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

一般建築部門|特別賞

智頭宿 楽之 設計者 小林 和生 (株)PLUS CASA 小林 利佳 (株)PLUS CASA
■講評

山陰側からの風の吹き付ける、鳥取県智頭宿に住み着いた設計者夫妻が、町から改修を打診されて始まったプロジェクトは、近隣住民へのゲストハウスづくりの必要性を説得することからことを起こさねばならなかった。それほどに閉ざされていたこの宿場町をこの作品が建つことで、一気に創造的で楽しいものに変化させている。旧建物の風合いや、年季の入った質感と、新たに加えられた素朴だが力強い造形とが渾然一体となって、新しくも古くもない不思議な空間を生んでいる。持続的に地域に貢献する作者の感性と忍耐の賜物である。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

一般建築部門|特別賞

CHRONOS DWELL  設計者 藤森 雅彦 藤森雅彦建築設計事務所
■講評

都市近郊の農地を転用して住宅地とするケースは多々あるが、通常は賃貸住宅メーカーに丸ごと任せて、田畑の中に突如として陳腐な集合住宅が建てられるのがオチである。それに対し、この作品はワンブロックを長屋の手法を持って、全体として戸建て住宅の集落のようにデザインされた愛らしい佳作である。棟間の路地はスケール感も心地よく、またその先にのぞく景色も、近隣の建物が断片化されて、真っ向から正対するのでなく、かといって塀を閉ざして隔絶してしまうのでもない、絶妙な関係が見えていて息苦しさがない。今後の住宅地の範となるものである。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

一般建築部門|優秀賞

TOMONi保育園(山口県)設計者 髙橋 勝 髙橋勝建築設計事務所 一級建築士事務所
■講評

敷地周囲の田んぼを見晴らすのどかな風景を楽しめる小ぢんまりとした保育園である。105ミリ角の流通木材を用いて、極めてリーズナブルに計画された木造建築の佳作である。梁材のせいを小さく抑えるために各柱からは四方に方杖を出していて、これが内部空間を特徴付ける優しげなアクセントともなっている。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

一般建築部門|優秀賞

やまだ屋おおのファクトリー 早瀬庵・お茶室設計者山代 悟 ビルディングランドスケープ
■講評

これまでにもCLTやLVLといった木質の新材料を積極的に活用して、新しい木造に挑んできた設計者による「和」の空間への挑戦である。スラブに用いたCLTには鉄骨格子を抱き合わせて構造を合理化し、外壁には意図的にLVL材を現しにして経年変化を目論んだ表現を試みており、斬新である。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

一般建築部門|優秀賞

真庭市立中央図書館 設計者 青木 茂 (株)青木茂建築工房
■講評

かつての役場庁舎を新たな図書館として再生しようという大胆な改修計画である。リファイン建築として既存建物の再生に長年実績のある設計者の面目躍如たる作品であり、随所に見られる思い切った回収の手腕に唸らされた。特にCLTを中心とする圧倒的な木材の内装の表現は圧巻である。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

一般建築部門|優秀賞

さん太しんぶん館 (山陽新聞早島印刷センター・山陽メディアネット早島配送センター)設計者 渡辺 猛 (株)佐藤総合計画
■講評

新聞工場として多くの小学生の社会科見学を受け入れる楽しい建築である。折板とALC板からなる質素な外装でありながら、湾曲する形態と幾何学模様を彫り込んだ壁面の意匠はそれを感じさせず、周辺に対してユニークなランドマークとなっている。見学者を飽きさせない内部空間も秀逸である。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

一般建築部門|優秀賞

企業主導型かも保育園ハッチェリー 設計者 福西  健太 福西健太建築計画事務所 長谷川 統一 (株)杉田三郎建築設計事務所 杉田 宗 広島工業大学環境学部 建築デザイン学科
■講評

矩形の平面に45度に振れたダイアゴナルな木軸グリッドを架けて、空間に変化をもたらしている。一見奇抜に見えるこの斜め格子が実は諸室の基軸となり、各室内に違和感がない。一方で外周壁との間に生じる三角形の空間が、子供の生活空間にふさわしいスモールスペースとなって全体を和らげている。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

住宅部門|大賞

はこ(広島県)設計者 成田 和弘  kufu  成田 麻依  kufu
■講評

広島市街を見下ろす高台に建つ設計者の自邸である。敷地は急峻かつ狭隘な坂道を登りつめたところにあり、圧送車によるコンクリート打設もままならないほどの難しい立地であるが、設計者自らが果敢にもこの土地を住みこなす情熱を持って取り組んだ意欲作である。一見大胆に見える架構も綿密に計算されており、おおらかに構えていて気持ちがいい。この場所にこの設計者夫妻が小さな子供2人とともに暮らし、日々の生活の拠点とすることが、近隣住民にとってとても心強いものとなっていることが想像できる。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)

住宅部門|優秀賞

RIDGE 設計者 大谷 直己 (株)PARA-DESIGNLAB SARO 一級建築士事務所
■講評

立地する周辺環境に対してあくまでも軒を低く抑え、寡黙でさりげない表情を生み出しているが、内部に踏み込むと一転して周囲の山並みを望む開放感のある中庭が出現する。この家の内部にゆったりと過ごすのは至福の時だと確信する。単純さを追求した随所に見せるディテールの巧みさは比類ない。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学名誉教授)